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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)5854号 判決 1999年12月08日

原告

江﨑洋二郎

ほか一名

被告

株式会社ケイシーライナー

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告江﨑洋二郎に対し、金五五四万五九四六円及びこれに対する平成七年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、各自、原告江﨑勢津子に対し、金五五四万五九四六円及びこれに対する平成七年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを七分し、その一を原告らの、その余を被告らの負担とし、補助参加により生じた費用は補助参加人の負担とする。

五  この判決は、一、二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告らそれぞれに対し、各自、金四〇〇〇万円及びこれに対する平成七年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(本件事故)

(一)  日時 平成七年六月三〇日午後一〇時一九分ころ

(二)  場所 岡山県赤磐郡山陽町馬屋所在の山陽自動車道上り一二五・八キロポスト付近路上

(三)  加害車両 被告平山隆(以下「被告平山」という。)運転の大型貨物自動車(大分八八か一八六九)

(四)  被害車両 亡江﨑恒男(以下「亡恒男」という。)運転の普通乗用自動車(岡山五一た九一八九)

(五)  事故態様

亡恒男が、岡山市から大阪府豊中市の実家に帰るため被害車両を運転して山陽自動車道を走行車線から追越車線に車線変更して走行中、何らかの原因で走行車線左側のガードレールに衝突し、追越車線に戻ったところ、後続の加害車両が、前方不注視のため制動措置をとらず、猛スピードで被害車両に衝突し、被害車両を約七〇メートル引きずって走行したため、亡恒男は車外に放り出され、背中、脊椎を強打し、事故発生の二時間後である平成七年七月一日午前〇時一七分外傷性ショックにより死亡した。

2(責任)

(一)  被告平山は、加害車両を運転し、追越車線を走行中、走行車線から追越車線に出てきて走行している被害車両を認めたのであるから、制限速度を守り、車間距離をとり、前方を注視して運転しなければならない義務があるのにこれを怠り、被害車両が走行車線左側ガードレールに衝突して追越車線に戻ってきたのに気付かず、被害車両との衝突を回避または緩和する何らの措置もとらず、猛スピードで被害車両に衝突し、被害車両を約七〇メートルにわたって引きずり、走行したため、亡恒男は被害車両の外に放り出され、背中、脊椎を強打し、外傷性ショックにより死亡した。

したがって、被告平山は、民法七〇九条による損害賠償義務がある。

(二)  被告株式会社ケイシーライナー(以下「被告会社」という。)は、被告平山の使用者であり、本件事故はその業務執行中に発生したものであるから、民法七一五条による損害賠償義務がある。

3(損害)

(一)  亡恒男の逸失利益 一億三五〇六万九〇七〇円

亡恒男は、昭和四六年三月二六日生で、平成七年三月岡山大学医学部を卒業し、同年四月医師国家試験に合格し、同年五月から、岡山大学医学部附属病院に研修医として勤務しており、死亡当時二四歳であった。

平成八年賃金センサス第三巻第四表医師男子、企業規模計、全年齢平均の給与額は年一一九四万七二〇〇円であるから、就労可能年数を六七歳までの四三年、生活費控除率を五〇パーセントとして、年五分の割合による中間利息を新ホフマン式計算法により控除すると、亡恒男の逸失利益は、次の計算式のとおり一億三五〇六万九〇七〇円となる。

1194万7200円×(1-0.5)×22.611=1億3506万9070円

(二)  慰謝料 二三〇〇万円

(三)  葬儀費用 一二〇万円

(四)  物損 五〇万円

被害車両は、亡恒男所有であり、本件事故により破損し使用不能となった。

本件事故時の被害車両の交換価値は、五〇万円を下らない。

(五)  弁護士費用 七二〇万円

4(相続)

原告らは、亡恒男の父母であり、亡恒男を相続分各二分の一の割合で相続した。

よって、原告らは被告らに対し、民法七〇九条、七一五条に基づく損害賠償の内金請求として、各自、各金四〇〇〇万円及びこれに対する本件事故の日の翌日である平成七年七月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)ないし(四)は認め、(五)は否認する。

(一) 本件事故日は、相当に強い降雨であり、本件事故当時も雨足は弱まってはおらず、通行の各車両は慎重な運転をせざるを得ない道路状況となっていた。

(二) 本件事故現場は、その直前にあるトンネルを抜け出して間もなくの地点であり、被告平山は右トンネルを進行中、走行車線落下物ありの電光掲示板による注意信号が出ていたので、追越車線を時速約七〇キロメートルで進行し、同トンネルを抜け出した後、走行車線に車線変更をするべく方向指示器を点滅させ、左後方を確認したところ、猛烈なスピードで走行車線を走行してくる被害車両を発見したので、被害車両をやり過ごした後走行車線に入らざるを得ないと判断し、被害車両の追い抜きを確認しながら追越車線を走行していた。

(三) 被害車両は、追越車線を走行していた加害車両を追い抜きざま、突然、加害車両が走行している追越車線に進入してきた。

これは、被害車両が走行していた走行車線の前方に大型貨物自動車が走行していたため、この車両を追い抜くために車線を変え、追越車線へ車線を変更したものと思われる。

(四) 本来ならば、既に加害車両が走行車線に車線変更のための方向指示器を点滅させていたのであるから、加害車両を走行車線に入れた後、追越車線に車線変更をするのが車両を運転する者としての常識であるにもかかわらず、被害車両は、加害車両を追い抜きざま追越車線に入るとともに、更に一段と速度を上げて走行し始めた。

その途端、被害車両は激しいスピン運動を起こし、そのために再び走行車線に入り込み、激しくボディーをガードレールに衝突させ、その反動により被害車両は放り出されるようにして再び追越車線に入ってきた。

その間の時間は、ほんの数秒間の出来事であった。

(五) 被告平山は、加害車両の走行する追越車線に入ってきたと思った途端に、被害車両は猛烈な水しぶきとともにスピンしながら走行車線に移動したのは確認できたものの、その後は水しぶきのために前方道路の視界を妨げられた状態であった。

その直後に追越車線に入り込んできた被害車両を発見し、急ブレーキをかけるとともに衝突を避けようとして中央分離帯に乗り上げるように追越車線の右側に加害車両を寄せたが、間に合わず衝突した。

2  同2(一)は争う。

本件事故は、亡恒男が車両を運転する者としての注意義務を怠り、無謀な運転をした結果発生したものであり、被告平山に過失はない。

同2(二)のうち、被告会社が被告平山の使用者であり、本件事故がその業務執行中に発生したことは認める。

3  同3は知らない。

4  同4は認める。

三  抗弁

1(過失相殺)

本件事故の大半の原因は亡恒男の無謀運転にあり、また、亡恒男は本件事故時シートベルトを装着しておらず、これにより死亡の結果が生じたものであるから、過失相殺をすべきである。

2(損害填補)

自賠責保険 一五一一万〇五四四円

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は争う。

2  同2は認める。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故)

(一)  ないし(四)は当事者間に争いがなく、これに証拠(甲二、四ないし七、九、一二、一六の1ないし13、丙一ないし四〔甲四ないし七と同じ〕、検甲一、被告平山本人、岡山大学医学部に対する調査嘱託の結果〔回答者法医学教室教授石津日出雄〕、鑑定人金山幸雄の鑑定の結果〔補充鑑定の結果を含む〕)を総合すると、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、山陽自動車道(高速道路)の東行車線であり、走行車線と追越車線の二車線道路(以下「本件道路」という。)で、両側にはガードレールが設置されており、最高速度を時速八〇キロメートルに規制されていた。

本件道路は一〇〇分の三の下り勾配でやや左へカーブしているが、ほぼ直線の道路で見通しは良く、本件事故時は雨で路面は湿潤していた。

2  被告平山は、加害車両(一〇トントラック)を運転して、本件道路追越車線を時速約一〇〇キロメートルで走行していたところ、走行車線を時速約一二〇キロメートルで走行してきた被害車両が追い抜いていき、進路前方で追越車線へ車線変更しようとするのを見た後、走行車線へ車線変更するために後方を左サイドミラーで確認していたところ、進路前方で被害車両が走行車線側に設置されたガードレールに衝突する音を聞き(ガードレールに衝突するところを見たものではなく、その間の被害車両の走行状態については見ていない。)、ついで、被害車両が走行車線側から加害車両の進路前方(追越車線)に斜めに進出してくるのを見て急制動の措置を講じ右にハンドルを切り衝突を避けようとしたが間に合わず、加害車両前部を被害車両後部に衝突させ(衝突時においては制動の効果は生じていない。)、被害車両を押す形で中央分離帯に設置されたガードレールを擦過しながら進行し、停止した。

なお、被告平山が被害車両が追越車線に進出を見た時点においては本件事故を回避することはできなかったものといえる。

3  亡恒男は、被害車両を運転して、時速約一二〇キロメートルで本件道路の走行車線を走行し、加害車両を追い抜いた後、追越車線に車線変更しようとした際、被害車両の制御不能に陥り(ハイドロプレーニング現象によるものと思われる。)、走行車線側に設置されたガードレールに被害車両左前部を衝突させ、左回りに回転しながらガードレールを擦過し、後部をガードレールに衝突させた反動で走行車線から追越車線に斜めに進出し、折から追越車線を走行していた加害車両に衝突された。

4  亡恒男は本件事故時シートベルトを装着していたが、本件事故前のガードレールとの衝突の際緩んだ状態でシートベルトがロックされ、本件事故の衝撃により車外に放り出され、加害車両前面に頭部を衝突させた後、中央分離帯部分に設置された落下物防止金網上に落下した。

5  亡恒男は、本件事故により平成七年七月一日午前〇時一七分、外傷性ショックにより死亡した。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

二  請求原因2(責任)

1  前記認定の事故状況からすると、本件事故の原因は指定最高速度を約四〇キロメートル超過する速度で進行し、被害車両の制御が不能となり、加害車両の進路前方に進出した亡恒男の運転操作の誤りがその大半を占めるものと言わざるを得ないが、被告平山にも、指定最高速度を約二〇キロメートル超過する制限速度違反及び被害車両が加害車両の進路前方に車線変更をしようとしているのを見ながら、その後車線変更のために後方車両の動静の確認に気を奪われ、被害車両の動静を注視するのを怠った(被害車両が車線変更をしようとしているのを見てから被害車両がガードレールに衝突する音を聞くまでに約一二二メートル、時間にして約四ないし五秒間走行しており、その間被害車両の動静を確認していない。)過失が存し、被告平山が被害車両の動静を注視していれば、本件事故を避け得たかあるいは死亡事故にまでは至らなかったものといえるから、被告平山は、民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。

2  被告会社が被告平山の使用者であり、本件事故はその業務執行中に発生したことは当事者間に争いがないから、被告会社は、民法七一五条に基づく損害賠償責任がある。

三  請求原因3(損害)

1  亡恒男の逸失利益 一億〇四八一万二一八八円

証拠(甲二、八の1ないし5、一〇、一四、一五)によれば、亡恒男(昭和四六年三月二六日生)は、平成七年三月岡山大学医学部を卒業し、同年五月一日医師免許を取得し、同月一六日から岡山大学医学部附属病院麻酔科に医員(研修医)として勤務していたことが認められ、亡恒男は、死亡当時二四歳であったから、六七歳までの四三年間就労可能であり、職業が医師であることからすると、右就労可能期間については、平成七年賃金センサス第三巻第四表職種別・産業計・企業規模計、医師男子の全年齢平均給与額年一一九四万七二〇〇円の収入が得られた蓋然性が認められるというべきであるから、これを基礎収入とし、生活費控除率を五〇パーセントとして、年五分の割合による中間利息をライプニッツ式計算法により控除してその逸失利益を算定するのが相当であり、すると、亡恒男の逸失利益の現価は、次の計算式のとおり一億〇四八一万二一八八円(一円未満切り捨て。以下同じ。)となる。

1194万7200円×(1-0.5)×17.5459≒1億0481万2188円

2  慰謝料 二〇〇〇万円

本件に現われた一切の事情を考慮すると、亡恒男の慰謝料は二〇〇〇万円と認めるのが相当である(なお、これにより本件事故による原告らの固有の慰謝料についても考慮済みである。)。

3  葬儀費用 一二〇万円

本件事故と相当因果関係のある亡恒男の葬儀費用は、一二〇万円と認めるのが相当である。

4  以上人身損害は合計すると、一億二六〇一万二一八八円となる。

5  物損

被害車両は、本件事故に先立つ亡恒男の運転操作の誤りによってガードレールに衝突しており、これによる損傷も決して軽微なものではなかったものであり、本件事故による被害車両の損傷の程度及びその損害額を証明する的確な証拠はないから、本件事故による損害額を認定するには至らない。

四  抗弁1(過失相殺)

前記認定の本件事故の状況からすると、本件事故の原因の大半は、亡恒男の運転操作の誤りにあるというほかないが、被告平山にも制限速度超過及び前方注視義務違反の過失があるから、これらを総合考慮すると、前記損害額からその八割を過失相殺するのが相当である。

そこで、前記損害額一億二六〇一万二一八八円からその八割を控除すると、二五二〇万二四三七円となる。

五  抗弁2(損害填補)

前記損害額二五二〇万二四三七円から既払の自賠責保険金一五一一万〇五四四円を控除すると、一〇〇九万一八九三円となる。

六  請求原因4(相続)

原告らが亡恒男の父母であり、亡恒男を相続分各二分の一の割合で相続したことは当事者間に争いがないから、前記損害額一〇〇九万一八九三円を相続分に応じて分配すると原告らそれぞれについて五〇四万五九四六円となる

七  弁護士費用(請求原因3(五)) 各五〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、原告らそれぞれについて五〇万円と認めるのが相当である。

八  よって、原告らの請求は、原告らそれぞれについて金五五四万五九四六円及びこれに対する本件事故の日の翌日である平成七年七月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 吉波佳希)

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